担当している2年次学生向け「微生物学I(細菌学)」の遠隔講義では、毎回冒頭に新型コロナウイルスに関する最新情報を紹介しています。
昨日は、米国の検査件数と日本の検査の今後の見通しについて取り上げました。
米国・ジョンズホプキンズ大学の集計によると、米国では1日あたり実に23万件(!)もの検査を行っています。日本における1日あたりのPCR検査件数が7,500件程度ですから、実に約30倍もの検査が行われていることになります。(人口比で換算しても約11倍です。)RNA抽出からPCRまで、かなり自動化したシステムを用いない限り達成できない数字だと思います。
当教室でも、3月末に感染研が自作した検査キットを用いた予備実験を行いました。逆転写RTとPCRを連続して行うOne-Step RT-PCR法です。共通機器室にある装置を使ってこれを行う場合、反応液を調製して終了まで2時間以上かかります。(もちろん実際の検査においては、検体の採取、輸送、ナンバリング等による検体管理、RNA抽出を、上記PCR反応前に行うことになります)反応液調製のプロトコールは「混ぜるだけ」ではなく、コンタミネーションを起こさないよう、かなり神経を使って行う操作です。
大学病院検査部には、自動RNA抽出装置と、より反応時間が短い(1時間以内)PCR機器が導入されましたが、反応液の調製が手作業であるのは変わりません。
このような作業を少ないマンパワーでやっているとしたら、さらにこれを10倍に増やせと言われても、全くもって無理な話です。
さらに現状ではRNA抽出キット、RT-PCRキットの調達も衛生研究所や各病院検査部に丸投げされている状況で、巷で問題となっているマスク同様、これらが将来枯渇する可能性も指摘されています。
米国は検査の初動で失敗したため、現在の感染爆発を招いたようですが、その後は強力な女性リーダーが検査拡大を牽引しているようです。このCNNの記事では、23万件/日もの検査をすでに行っていながら、「さらなるブレークスルーを成し遂げて検査を劇的に増やす必要がある」と主張しているのですから驚きです。彼我の差はいろいろありますが、まずは機器、消耗品をすべてひっくるめた「物量の差」でしょうか。正直、現在の手作業に頼っている限り、PCR件数を急増させるのは難しいと思います。
さて本業の研究の方も新型コロナによる影響を受けています。
私が代表世話人の一人として開催予定だった「ヘルペスウイルス研究会」は来年6月に延期としました。8月に旭川医大・原渕保明教授が開催予定だった国際EBVシンポジウムは2021年7月末への延期されました。10月末に神戸大の森康子先生が開催予定だった日本ウイルス学会もつい先日1年延期が決まりました。今後の学会運営は、オンサイトの開催とビデオ開催の併用が一般化するのかもしれません。
ところで写真は2019年にCancer Science誌に書いた総説がたくさんダウンロードされたという証明書です。自分たちの仕事を粛々と続けることもまた大事と考えています。