• Division of Microbiology (Kanda lab), Faculty of Medicine, Tohoku Medical and Pharmaceutical University

EBウイルスの後期遺伝子転写機構の解析

近年、ウイルス後期遺伝子の発現制御に注目が集まっています。後期遺伝子には、ウイルス粒子を構成する構造蛋白質や、細胞表面レセプターに結合するウイルス粒子表面の糖蛋白質など、感染性粒子の形成において必須のウイルス蛋白質群がコードされています。後期遺伝子発現の制御配列は、コーディング領域の上流のTATT配列(TATA配列ではない!)から始まるわずか35塩基対という短い配列です。前初期遺伝子、初期遺伝子の制御配列が、細胞性の転写因子結合配列を含むのに対して、後期遺伝子の発現制御配列はきわめて単純です。このような短い制御配列により十分量の後期遺伝子産物がタイミング良く作られる仕組みに興味を持っています。

後期遺伝子の制御配列にあるTATT配列を認識するEBウイルス遺伝子産物をコードするのがBcRF1遺伝子です。BcRF1はウイルスの初期遺伝子で、BcRF1蛋白質は750アミノ酸からなります。そのアミノ酸配列に基づいた予測から、BcRF1蛋白質は細胞性基本転写因子であるTATA binding protein (TBP)と似た高次構造を取ることが報告されました。すなわちウイルスは後期遺伝子の転写開始を行うために”viral TBP”とも言うべき”自前のTBP”をコードしている(!)ということになります。BcRF1蛋白質を含む六種類の初期遺伝子産物は、vPIC(viral preinitiation complex, vPIC)と呼ばれる複合体を形成しています。vPICをコードすt。vPICの六つの構成因子は、いずれか一つでも欠損するとウイルス粒子産生が不可能となる必須因子です。vPICによる後期遺伝子発現は、感染性ウイルス粒子産生において必須の過程であることから、vPICは抗ウイルス薬のターゲットとしても期待されています。

BcRF1遺伝子を欠損するノックアウトウイルスは既に作成されていますが、従来のノックアウトウイルスでは、BcRF1のN末端側414アミノ酸の発現が残存しており、完全な機能欠損ウイルスではありません。そこで私たちは、新たにBcRF1遺伝子のほぼ全領域を欠く欠損ウイルスを作成しました。この欠損ウイルスを用いて、BcRF1欠損の影響、および外因性BcRF1による相補効果を調べています。

子孫ウイルス産生感染時にみられるウイルス遺伝子のカスケード状発現