• Division of Microbiology (Kanda lab), Faculty of Medicine, Tohoku Medical and Pharmaceutical University

追悼 C. David Allis博士

C. David Allis博士が71才で亡くなりました。彼がヒストンアセチル化酵素(histone acetyltransferase, HAT)を同定・クローニングしたCell論文は1996年の発表ですから、45歳の時の成果です。彼は私の留学時期(1995-2000)に現れたスーパーヒーロー的存在でした。
留学先のSalk研究所の近隣にあるScripps研究所で開催された彼のセミナーを聞きにいったことがあります。Scrippsの共同研究者がセミナーのホストだったので、終わった後のちょっとした歓談の会に参加しました。とても穏やかな話しぶりだったことを憶えています。
Cell論文を発表した当時、彼はロチェスター大学の所属で、テトラヒメナを研究材料としていました。テトラヒメナは水中に生息する繊毛虫の一つです。研究者にはよく知られたモデル生物ですが、一般的には「マイナー」な存在でしょう。テトラヒメナの大核のヒストンが高度にアセチル化されていることから、これを材料としてHATを同定・クローン化しました。クローン化したHATが酵母の転写活性化因子であるGcn5pと相同であり、しかもGcn5pそのものがHAT活性を持つという大発見が、その後のヒストン修飾による転写制御研究の爆発的流行の引き金となりました。
この機会にHAT論文の第一著者とAllis博士自身によって書かれた回顧録を読みました。彼らがHAT(p55)を同定するにあたり「activity gel assay」という特別な方法を使った理由などが書かれていて面白いです。この方法についてはLasker Foundationの動画で彼自身が解説しています。第一著者の活躍ぶりや、論文が載ったCell誌の刊行日が彼の誕生日であることを嬉しそうに語っています。
米国科学アカデミー会員に推挙された際にPNAS誌に掲載されたAllis博士の紹介記事から、若い頃、周囲の人から医学部への進学を期待されながら、自身の思いを貫いてバイオロジー研究の道に進んだこと、(ロチェスター大学に行く前に)ベイラー大学で最初に独立した際に、「マイナー」な研究に対する風当たりもある中で、チェアーのサポートもあって仕事を進め、テニュアのハードルを乗り越えていったことを知りました。他人の言に従いテトラヒメナ研究をやめていたら少なくとも1996年のCell論文はなかったでしょう。自分の信念を貫いて、「マイナー」なモデル生物を用いて突破口的な仕事をして、これを「メジャー中のメジャー」な研究分野に発展させた功績に対し、あらためて敬意を表する次第です。