• Division of Microbiology (Kanda lab), Faculty of Medicine, Tohoku Medical and Pharmaceutical University

胃がん細胞由来EBウイルス株の解析

EBウイルスゲノムは約180キロべースの二本鎖DNAです。ウイルスとしては大きめのウイルスゲノムを持っています。このウイルスゲノム上には80以上のウイルス蛋白質、ノンコーディングRNA、マイクロRNAがコードされています。

EBウイルスの特徴的な感染形態として、「潜伏感染」があります。潜伏感染したEBウイルスゲノムは二本鎖環状DNA(エピソーム)として、細胞核内に安定に維持されます。分裂増殖するがん細胞内においては、エピソームは細胞染色体と同調して複製され、娘細胞へ分配されます。EBウイルス陽性胃がん細胞は、常に潜伏感染状態を維持しており、ほとんど子孫ウイルス産生を行いません。

私たちのグループは、こうした潜伏感染細胞から全長EBウイルスゲノムDNAを効率よく単離・クローン化する方法を開発し、2016年に報告しました(リンクはこちら)。この方法は、細胞核内に維持される環状EBウイルスゲノムを「ゲノム編集法」により一ヶ所切断しつつ、同時にBACベクター配列(Bacterial Artificial Chromosomeベクター、200キロベースを超えるDNAをクローン化できるベクター)と「ウイルスゲノムDNA配列と相同の左右アーム配列」を有するターゲッティングベクターを導入することで、EBウイルスゲノム全長をBACベクターにクローン化する方法です。実際に韓国で樹立されたEBウイルス陽性がん細胞株2株(SNU-719, YCCEL1)から、それぞれ全長EBウイルスゲノムをクローン化して、全長塩基配列を決定することで、両者が異なるEBウイルス株であることを明らかにしました。この成果を発表した2016年の論文はspotlight論文に選ばれました(下図)。

そこで日本人に多い胃がんについて、消化器外科学教室、および病理診断科の協力の下、EBウイルス陽性胃がん細胞の初代培養と株化を試みました。EBウイルス陽性胃がん細胞の短期間の培養は可能でしたが、細胞株化には至りませんでした。一方で、特殊な病理組織学的特徴を示す食道・胃接合部がん細胞の株化に成功しました。EBウイルス胃がん細胞株の長期継代培養、ウイルスゲノムのクローン化、得られたウイルスゲノムからの感染性ウイルス再構成による機能解析、と進めたいのですが、なかなか道程は遠いです。