• Division of Microbiology (Kanda lab), Faculty of Medicine, Tohoku Medical and Pharmaceutical University

アジア地域における日本人EBウイルス株の系統学的位置の解析

同じ日本人でも反復塩基配列には個人差が大きいため、世界各地のEBウイルス株の地域差を正確に評価するためには、反復配列を除外したウイルスゲノム塩基配列を用いた比較を行う必要があります。私たちは、反復配列を除外しつつ、世界各地のEBウイルス無症候感染株のウイルスゲノムの系統樹解析を行いました。その結果、アフリカ、ヨーロッパ、北米のウイルス株は近縁であるのに対して、アジア由来株、パプアニューギニア由来株は、ヨーロッパ株とはそれぞれ異なるグループを形成することがわかりました。私たちが決定した日本人扁桃組織由来株は中国由来株と共に大きくアジア由来株に分類されますが、その中において日本株と中国株は明確に区別されることがわかりました。興味深いことに、日本人扁桃由来株は私たちが先に決定した韓国の胃がん由来株(SNU-719, YCCEL1)と近縁であることがわかりました。すなわちアジア地域に分布するEBウイルス株は日本由来株と韓国由来株が同じサブグループを形成する可能性があります。

私たちは、こうしたEBウイルス臨床株の地域差と、各民族の由来を調べた考古学・言語学・遺伝学データとの関連性に注目しています。2021年に発表されたNature論文によれば、日本人と韓国人は、ともに約6,000年前に中国東北部の西遼河領域において雑穀農業を行っていた民族に由来します。一方、現代中国人は、黄河領域で米作農業を行っていた民族が南方へ勢力拡大したものらしいです。言語学的には、日本人・韓国人・モンゴル人は、現代の東西アジアに広く居住している「トランスユーラシア言語族」に属する民族であり、上述の西遼河領域の農耕民族を共通の起源とするらしいです。そこでトランスユーラシア言語族は同系統のEBウイルス株を保持しているという仮説を立て、この仮説を検証するために、韓国、モンゴルのEBウイルス株を解析するプロジェクトを計画しています。

日本人扁桃組織由来EBウイルス株(赤)は、韓国胃がん細胞株SNU-719、YCCEL1に由来するEBウイルス株と同じサブグループを形成する。
Yajima M et al., J Gen Virol 2021参照